レジェンドストーリー 
高校野球編

この仕事がこんなに喜んでいただけるとは…! 
朝日新聞と高野連主催の全国高等学校野球選手権大会。夏の高校野球には、グラウンド以外でもさまざまなドラマがあります。

~ Story ~

その日、私は、高校野球の月刊雑誌「チャージ」をお届けしたご家庭に営業するというキャンペーンに参加していました。対象は約10軒。でも、正直な話、かなり不安がありました。実は2週間前、甲子園に関連する別の営業プロジェクトに参加していた私は、今回のご訪問先がその時のお客様である可能性が高いことを知っており、また、夏の高校野球の予選も進んでいて、多くの学校は既に負けている状況だったのです。
(決められるかな? まぁ、とにかく気合入れるしかないな! 頑張ろう!)
各ご家庭を回り始めましたが、案の定、野球熱はすっかり冷めており、記念グッズや販促品の話をしても、「何を今さら? もういいよ、終わっちゃったしさ…」
といった感じで、営業を予想してドアを開けない家や、営業成果があった家も別のサービス品や必死のお願いでなんとか契約に結び付けたという具合でした。
(やっぱりな…、まぁ、でもなんとかあと少し契約を挙げたいな…)
そして、あと残り数軒というところで、一軒のお宅に伺いました。

<ピンポーン> 「こんにちは、朝日新聞です。」
「あ、新聞、要りません。」 <ガチャ>
(??? いやー、もう一回!) <ピンポーン>
「何ですか?」
「あの、甲子園の月刊雑誌でお世話になった朝日新聞です。あの、お知らせがあって伺いました。」
「結構です。」 <ガチャ>
(あ、いや…、えええい、もう一回!) <ピンポーン>
「ホント、何ですか!!」
「あ、すみません、あ、あの、高校野球の記念グッズの件だったんですが…」
「野球のグッズ? 学校の部活を通すやつ?」
私は悩みました。
(「はい、そうです」と言えばドアが開くよなあ…。でも違うし…、正直に言おう!)
「いいえ、こちらは学校とは無関係で、朝日新聞のオリジナルでございまして…」
「本当に無関係なんですね? では、ちょっと待っててください。」
「えっ? あ、はい。え?」
ガチャッと玄関の扉が開き、中から奥様が出て来られました。

私は訳が分かりません。でもドアが開いたから良しとして、全国高等学校野球選手権大会の主催である朝日新聞社が高校野球の記念として作製したグッズを契約のプレゼントとしてお渡しできる旨など、一通り説明しました。
すると、「わかりました。どうすればいいですか?」と奥様はおっしゃいました。
「あの、1年とは申しませんので、半年だけ朝日新聞にお付き合い頂けませんか?」
「新聞を取ればいいんですね。わかりました。」
「あ、ありがとうございます。…???」
(あれ? アプローチでは、あんなに新聞は要らないと言っていたのに、なんでこんなにすんなり契約してくださるんだろう?)
私は、恐る恐る理由を聞いてみました。
「実はね、うちの息子は今回の大会に出ていないの。…実は事故にあってね。」
(え?どういうこと?)
「事故といってもね、リンチにあってね、殴られ過ぎて脳震盪が酷くて、それで大会に出られなかったの。まぁ、もっとも部も部でね、真剣に取り合って貰えないし…。出場停止になるのを恐れたんでしょうけどね。」
「そうだったんですか…。」
「父母会も全然やる気がなかったり…、うちとはかなり温度差が激しくて、真剣にやってるうちの子は周りからみると鬱陶しかったんでしょうね。標的にされたのよ。」お母さんの目は潤んでいます。

「うちの子、小学校からずっとレギュラーでね…」
ふと、お母さんの視線を追うと、下駄箱の上には数々のトロフィーや賞状、子供の頃から活躍してきた写真が並んでいます。親子二人三脚で、よほど一生懸命やってきたのでしょう。
「甲子園に出ることがこの子の夢だったの。だからいたたまれなくてね。」
奥様は続けます。
「私が悪いのよ。神奈川の強豪私立からお呼びがかかっていたのに、東京にしなさい、東京でも強いところはあるからと、今の公立高校に入れたんだけど、それがいけなかったの…。高校3年生最後の大会だったから、何かみんなでお揃いのTシャツとかハチマキなど作れないかって言ってみたりもしたのだけど、部のまとまりがないからそれも流れちゃってね…。だから良かったわ。新聞は読まないけど、いいわ!半年取って、この記念のTシャツ貰えるなら有難いわ。ありがとね!」
「…お母さん、このタオルもバットもプレゼントさせて下さい!」
私は自然とそう言っていました。
「え?いいわよぉ、どれか一つなんでしょう?」
「いいんです、僕に出来ること、そのくらいしかないんで!」
「ほんと?ありがとう。うちの子、喜ぶと思うわ。何より私が嬉しいしね。ありがとう、必ず半年取るわね。宜しくお願いします!」
「ありがとうございます!!」

その後、私は猛烈に反省しました。正直、営業での数字や成績のことばかり考え、大切な記念グッズも販促物にしか見えなくなっていた自分を恥じました。営業の現場における人と人とのつながりは「物」ではなく、お客様に想いが伝わったり、共感し合えた時に契約に繋がるという、そんな原点を改めて痛感しました。
(そうだ、だからこの仕事が大好きになったんだよな。)
何か、自分の中に温かいものがこみ上げてきました。
そしてなにより嬉しかったのは、息子想いのお母さんの大切な大切な思いに触れることができ、一つの無念な思いを救うお手伝いができたこと。なんと価値のあるご契約を担当させてもらえたのだろう…。
この仕事に、このプロジェクトに、このご縁に、感謝でいっぱいになりました。