レジェンドストーリー 
優しいおばあちゃん編

僕のセールストークを、何も言わず、ニコニコ聞いてくれたおばあちゃん。でも、おばあちゃん、本当にいいんですか?
「あんたは他の子と違う。あんたのために取ってやりたいんだから、いいんだよ!」
契約をしてくれたおばあちゃんは、ご主人を亡くされた上に…

~ Story ~

その日はパッケージセールスの最終日でした。対象のお宅をまわる前に、まずは軒並み白叩き(過去に契約したことがない、または現在契約のない過去の読者への勧誘)を開始しました。
夕方にさしかかる頃、とあるお宅で、ご高齢なおばあちゃんが出てきてくださいました。

新聞は取っていないとおっしゃるので、「新聞読んだほうがいいですよ、なんでかというと…」なんてひとしきりつらつらとお勧めし、「じゃあ、こちらにサインを」と早々に契約書を出しました。
すると、それまでニコニコしながら、しかしなぜか無言で私の話を聞いていたおばあちゃんは、なんの抵抗もなくペンを持ってくれました。
そうなってくると少し失礼ではありますが、認知症の恐れが出てきます。あまりにもスムーズにご契約頂いた場合、さて、いかがしたものか…。
私は少し考えてしまったのですが、おばあちゃんはそのままニコニコしています。そしてようやく、口を開いてくださいました。

「朝日新聞はね…。死んだじいちゃんがずっと読んでたんだよ。もう5、6年になるかねぇ…。」
(あ、良かった。大丈夫みたいだ。)
安心した私は、
(おばあちゃん、疑ってごめんね)
なんて密かに思いながら、話しを進めるのをやめ、しばしおばあちゃんの話を聞いておりました。
「何にでも一生懸命なじいちゃんだったけど、特に仕事はほんとに頑張る人じゃった。大好きだったから寂しいよ…。」
(そうなんだ、いいおじいちゃんだったんだねぇ)
「じいちゃん亡くなってからはもう目が悪くて見えないし、新聞もやめたんだよ。
それに、ほんと言うとね…、耳ももうほとんど聞こえないから、さっきからあんたが何言ってるか、わかんないんだよ…。」
(え?そうだったの? だからずっとニコニコしたまま、うなずくだけだったのか…)
「…だけどね、あんたはそこらの子たちと違う。そのくらいはわかるよ。」
(えっ???)
「じいちゃんの若い頃みたいだ、いつも一生懸命仕事してんだろうな。いいよ、あんたのために取るよ。
わざわざうちに来てくれたんだ。」
私は驚いて急いで言いました。
「でも、おばあちゃん、いいよ、字が見えないんでしょう、新聞取っても仕方ないでしょ?」
「いいよ、あんたのために取ってやりたいからいいんだよ。それで成績になるんだろ?
ただ見えないもんだから3ヶ月で許しておくれ。」
「ほんとにいいの? 助かるよ」

「あんたお子さんいるのかい?」
「うん、いるよ。」
「そうか、じゃあこの飴ちゃんも持っていきな。」
「うん、ありがとう。」
「あんた、きっともっと出世するよ。なんかそんな気がするよ。頑張りな。」
「ホント?ありがとね、嬉しいよ。今回は本当にありがとね! お母さんもいつまでも元気でね!」
「はいよ。ありがとね。じゃあね。奥さん大事にな。」
「はい!ありがとうございました!」

とても幸せな気持ちになりました。まるで、今までのことを全て認めてもらえたかのような、そんな温かい気持ちに包まれました。期間は短い3ヶ月でしたが、この仕事をやってきて良かったなぁと心からそう思えるご契約でした。ありがとうございました。